だめよめもよ日記

暇をもてあましては寝てばかりいる主婦。このままではまずいという自覚あり。これでも良き方向へがんばっているつもり。

拝啓 ご先祖様

お盆なので、お手紙を書きました。

 

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田中太郎(仮名)のご先祖様

 

拝啓

暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。いえ、そちらの世界は温度差などなく、快適なのかもしれませんね。

 

おかげさまで、現在の田中家の主、一男(仮名)さんに産まれた次男坊の田中太郎(仮名)は、無事に30年と少しの間、生き延びています。

話を聞く限り、あまりのやんちゃさに、母親に「この子は生きていればそれでいい」とまで思わせたかなりの問題児だったようですが、無事に生き延びています。

それもこれも、ご先祖さまが築いてくださった環境のおかげです。

 

若者が極端に少ない、町の人はみんな顔馴染み状態の田舎という環境のおかげで、そして一男さん、お母さん、年の離れたお兄さんやお姉さんのおかげで、太郎はたくさんの愛を受けて育ちました。

子供の頃は、学校からの帰り道に必ずぼうしを落とし、あらゆる物を落とし、時にはランドセルなど、邪魔になったものを自分からほうり投げて身軽になって家に帰ってくるような毎日だったそうですが、

おかげさまで名前が書かれた私物はどこに落ちていてもそれが町内なら必ず田中家のもとに戻ってくるという仕組みができあがりました。

なんなら落とした覚えのない、名前の書かれていないものも、「きっとこれは太郎のものだ」ということでまずは田中家に届いていたようです。

そこらへんは、私よりもご先祖様の方がお詳しいかもしれませんね。かなりのお力をお借りしたのではないかと思います。その節は大変、大変にお世話になりました。

 

今でも太郎は田中家の実家に帰ると、脱いだパンツや靴下をリビングのあちこちに脱ぎ散らかします。そして、母や姉がなにも言わずにそれらを洗濯機にいれるという習慣が強く残っております。

私も最初は驚きましたが、当の本人は涼しい顔をして脱ぎ散らかし続けるので、それが普通なのだと思うようになりました。

ただ私と太郎が2人暮らすマンションでは、太郎は仕事から帰るととりあえず制服と靴下を脱いでリビングの床におき、数時間後お風呂に入りにいくついでに、床においてあった靴下を自ら洗濯機に入れるようになりました。

これは我が家にとって、人類が初めて月面に降り立ったのと同じほどの重要な一歩ではないかと思います。

ちなみに翌朝、床に置いてある制服を自分で拾い上げ、裏返しになっている袖やズボンを自分戻し、臭いを確かめ、着ていくのを2、3日は繰り返します。

 

これは、私が鬼になり、床においてあるものは非常に気になるけれども片付けないという苦渋の決断をしての結果ではありますが、

自分の脱いだものは勝手にきれいになって畳んであるとすら考えていた太郎が、洗濯機に入れようという考えに至った最初の一歩は、ご先祖様が太郎にこっそりとささやいてくださったおかげなのではないかと思っています。

未熟者ではございますが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 

例をお伝えしすぎてしまいましたが、今ではこのように、太郎は幼いころに培った愛嬌のよさで多少のわがままを押し通す能力を身につけています。

その能力は仕事でもいかされているようで、話を聞く限り自分のやりたいように仕事をしつつも周囲の同意を得ており、良い評価までいただいているようです。

毎日仕事から帰ってきては自慢話を聞かされるので、私としても内心は話半分で聞いておりましたが、しっかりと昇給やボーナスとして形になっており、嫁の立場としてはこのまま、できるだけ家から一歩も出ずに生きていきたい次第です。

収入の差がそのままテレビのチャンネルの主導権になり、私としては肩身が狭いですが、太郎が汗水たらして仕事をしている間に私はff14なりドラゴンクエストなりを好き勝手にさせていただいております。

とことんひきこもり、たまに外に出たくなり仕事をし、そして引きこもるという最高の毎日です。私一人ではとてもじゃあないですが暮らしていけません。

ここまでご先祖様に感謝をしがてらさんざ夫をコケにすることで日頃のうっぷんを晴らしている私ではございますが、太郎なしには生きられません。

そんな嫁を受けとめる広い心も、ご先祖様のご指導ご鞭撻があったからこそと思います。本当に本当にありがとうございます。

 

最後に、余談ではございますがどうしても感謝の気持ちをお伝えしたいことがございます。

 

田中家に土地を遺してくださり、本当にありがとうございます。

 

田中家のご先祖様が遺してくださった土地で野菜と米をつくり、私はその作業に一切関わっていないのですが我が家にもおすそわけをいただき、それが我が家の命綱となっております。

特に茄子は絶品です。炒めてもよし。揚げても煮込んでもよし。一口噛むごとに、市販の茄子では味わえない深みが出てくる田中家の茄子は、私の大好物です。願わくば田中家の茄子だけ食べて生きていきたい。

それもこれも、土地を遺してくださったおかげです。太郎は次男なので、ゆくゆくは長男であるお兄さんの土地になるのでしょうが、これからもお米と茄子はいただいていけることを切に願っております。

 

来年もまたお盆にお帰りください。どうか田中家と太郎をこれからも、すえながく、よろしくお願いいたします。

 

敬具

 

田中花子(仮名)